クライアントへの対応力を強化する方法とは?

カウンセラーのクライアントへの共感力を高めるセルフ・カウンセリング

自分の既成概念に気づき、自分と相手をともに活かす交流をめざす
『セルフカウンセリング』を普及するNPO法人です。

写真はイメージです(photoACより)
写真はイメージです(photoACより)

「セルフ・カウンセリングって単なる自己理解の方法でしょ。

自分のことはわかっても、クライアントの気持ちはわからないから、相談業務には役に立たないでしょ?」

 

私はカウンセラーの方に時々このように言われることがあります。

確かにセルフ・カウンセリングはリアルな自己理解が可能になる方法です。

セルフ・カウンセリングで自己理解できると、自分の思いを離れて、クライアントの気持ちをそのままに受けとめ共感力を高めることができるようになります。

その体験をしたカウンセラーのケイコさんについてご紹介しましょう。

 

□ ケイコさんの体験

 

ケイコさんはある時、クライアントのAさんのカウンセリング を担当することになりました。

ところが、ケイコさんは、Aさんと話していると気持ちがモヤモヤして落ち着かなくなりました。

落ち着いてカウンセリングができないなんてカウンセラーとして失格ではないかと思い,落ち込みました。

どうすればいいのか思い悩んだ末、以前から知っていたセルフ・カウンセリングに取り組んでみることにしました。

セルフ・カウンセリングのフォーマットで、その時の自分の心の中の思いと一緒に自分と相手のやりとりを具体的に書き表してみると、自分がどうしてAさんと話しているとモヤモヤしてくるのかが見えてきました。

 

□ ある日のAさんとのカウンセリングの場面

 

私が相談室で待っていると、Aさんが部屋に入ってきました。

私はAさんを見ながら、〈Aさん、うつむいている。

元気がなさそうだ。

また会社で何かあったのかな〉と思いました。

Aさんはお辞儀をした後、椅子に座りました。

Aさんは右足をガタガタと動かし始めました。

私は〈Aさん貧乏ゆすりしている。

イヤだな。

やめてほしい。

貧乏ゆすりしているのを見ているとイライラしてくる。

でもAさんはクライアントだ。

Aさんの全てを受け入れなければ良いカウンセラーとは言えない。

我慢しなくては。

Aさんに今日の調子を聞いてみよう〉と思いました。

私は「Aさん、こんにちは。

今日の気分はいかがですか」と言いました。

私は〈Aさんの言葉に集中したいけど、貧乏ゆすりが気になって仕方ない。

このままじゃ、Aさんの話が落ち着いて聞けない。

どうしよう。

このままじゃ、カウンセラー失格になっちゃう。

なんとかしなくちゃ。〉と思いました。

 

この後、ケイコさんはモヤモヤしたままAさんのカウンセリングを終えました。

 

ケイコさんはこの場面を書いた後、読み返しました。

すると、自分がAさんの貧乏ゆすりにイライラしていたことにすぐに気がつきました。

Aさんのことを否定的に思う自分はカウンセラー失格と思っていたけれど、Aさんのことを否定的に思っていたのではなく、貧乏ゆすりに否定的な気持ちが生じていただけだったと分かり、ホッとしました。

ケイコさんは自分が貧乏ゆすりを見ると落ち着かなくなるのは、なぜなんだろうと思いました。

 

□ ケイコさんの自己形成(*)

 

ケイコさんは貧乏ゆすりについて考えていると、母親のことを思い出しました。

ケイコさんは母親が事あるごとに「貧乏ゆすりをすると貧乏になる。

貧乏ゆすりはしてはいけない」と言っていたことを思い出しました。

ケイコさんは自分が貧乏ゆすりを見ると落ち着かなくなるのは、母親から貧乏ゆすりは良くないと言われ続けていたからだと思い当りました。

母親から言われ続けていたことが無自覚的に自分を縛っていたことに気づきました。

このことに気づくと、スーと気持ちが楽になっていきました。

 

□ Aさんとのカウンセリングが変化した

 

Aさんのカウンセリングの機会が再びありました。

Aさんが相談室に入ってきました。

Aさんは椅子に座るとすぐに右足をガタガタと動かし始めました。

私は〈Aさんの貧乏ゆすりが始まった。

Aさん下を向いているな。

Aさんが貧乏ゆすりをするのは落ち着かないのかな。

不安なのかもしれない。

Aさんの気持ちが楽になるといいな。

Aさんの話しっかり聞きたいな〉と思いました。

 

Aさんが帰られた後、今日のカウンセリングを振り返ろうとしたとき、私は〈あれ?不思議!

私、貧乏ゆすりが気にならなかった。

モヤモヤしない。

Aさんの話に集中していたようだ〉と思いました。

 

カウンセラーも、時には、その時のクライアントの様子に対して否定的な気持ちが生じることがあります。

自分の気持ちへの理解が深まると、クライアントの立場に立ってクライアントの気持ちに共感しようとする気持ちが自然に生まれます。

セルフ・カウンセリングの取り組みはクライアントへの共感力を高められる方法なのです。

 

(*)自己形成とは、自分の生きてきた歴史のことです。

 自分の生きてきた歴史の中で、私たちはモノサシ(価値判断の基準)を形成します。自分のモノサシを自覚することで、自分のモノサシを押し付けるのではなく、相手を一人の人格として尊重できるようになるとセルフ・カウンセリングでは考えています。

 

 (セルフ・カウンセリング は商標登録されています。)

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