夫婦⑥ー岸本さん(仮名)の体験記ー

写真はイメージです(イラストACより)
写真はイメージです(イラストACより)

セルフカウンセリング®という心理学(自己発見心理学)に基づいて、企業研修としてコミュニケーショントレーニングを行ったり、コミュニケーショントレーナーの資格取得のためのセミナーを企画運営しているNPOです。このコラムでは、セルフ・カウンセリングにまつわる様々な情報をお伝えしています。

 

セルフ・カウンセリングの創案者である渡辺康麿先生は、かつて公民館や社会教育館で、主婦の皆さんを対象にセルフ・カウンセリングの手ほどきをしていました。

そして、参加者の皆さんの体験記を、「妻たちのセルフ・カウンセリング」というタイトルで雑誌に連載していました。

その体験記の一部を、ご本人の承諾を得て、ブログで紹介していきたいと思います。

 

今回は、岸本芳恵(仮名)さんの体験記の第6回(最終回)です。

 

(前回までのあらすじ)

ご主人は、岸本さんが外出すると不機嫌になります。

岸本さんはご主人の顔色をうかがいながら外出することに窮屈さを感じています。

岸本さんは、もっと気軽に外出できるようになりたい、との思いからセルフ・カウンセリングを学び始めました。

講座に参加して、セルフ・カウンセリングの書き方のルールを学んだ岸本さん。

書き方のルールに沿って、ご主人とのやりとりを書いてみました。

その中で、ご自分が自分の本当の気持ちを素直にご主人に伝えていないことに気づきました。

さらに、外出したい気持ちと、夫のために家にいたい、という気持ちの両方が自分の中にあり、葛藤していたことに気づきました。

 

岸本芳恵(仮名)さんの体験記 その6

 

◆「役員をやるやらないは、どちらでも良くなったの」

 

次の日曜日のことです。子どもたちは、それぞれの友だちと出掛けて行きました。

夫は、居間で、本を読んでいました。

私は、自分の気持ちを、夫に話してみようと思いました。

私は、「PTAの役員のことなんだけど、役員をやるやらないは、どっちでもよくなったの」と夫に話し掛けました。

夫は、本から顔を上げ、私の顔をちょっと驚いたような表情で見ていました。

 

 「私はね、自分の気持ちをあなたに話していたつもりでいたの。

でもね、この間、あなたに話した時のことを振り返ってみたら、

自分の気持ちを、あなたに何も話していないことに気づいたのよ」

と言って、私は、自分がどんなことに気づいたのかを話しました。

 

自分の中に、外の世界を大事にしたいという気持ちがあること。

それと同時に、夫と一緒にいたいという気持ちもあったこと。

その両方が自分にとってはとても大切なものだということ。

夫は黙って私の話を聞いていました。

 

◆「ぼくも自分の気持ちが素直に話せるよ」

 

私の話が終わると、夫は静かに話し始めました。

 

「そうか。君の気持ちがよく分かったよ。

これまで、君が気の進まないことを無理して引き受けることが、気になっていたんだ。

君の中に、やってみたいという気持ちがある、と聞いて、ぼくもほっとしたよ。

それに、ぼくのことも気にかけてくれていると言うことが分かって、嬉しかったよ。

正直言って、ぼくの中にも、自分がおろそかにされているのではないか、と面白くない気持ちも多少はあったしね。

不思議だな。君が自分の気持ちを率直に話してくれたら、なんだか、ぼくも自分の気持ちが素直に話せるよ。

以前だったら、多少面白くない気持ちがあっても、そんなこと言えなかったと思うよ。

もし、君がやりたいと思うなら、もう一年役員をやったらいいじゃないか。

土曜日に家を空けたっていいじゃないか。

こうやって、一緒に話をする時間がとれれば、それだけで充分だよ」。

 

 

ほんの短い時間でしたが、長い間、一緒に過ごしてきて、

夫との会話でこんなに満たされた思いになれたのは、初めてのことでした。

 

夫もおそらく同じことを感じていたのかもしれません。

 

自分の気持ちに自分で気づき、それを相手に伝えることが、

こんなに豊かな時間を与えてくれるなんて、自分でも驚いています。

 

セルフ・カウンセリングが私たち夫婦に新しい関わり方を教えてくれたのです。

(おわり)