セルフカウンセリング®という心理学(自己発見心理学)に基づいて、企業研修としてコミュニケーショントレーニングを行ったり、コミュニケーショントレーナーの資格取得のためのセミナーを企画運営しているNPOです。このコラムでは、セルフ・カウンセリングにまつわる様々な情報をお伝えしています。
7月のブログは多感な時期である学生との関わりをテーマに「スクール相談員の体験記」をお届けします。この体験記は学事出版 月刊生徒指導に掲載されました。
自分の問題に向き合えるように
卒業写真って、撮った方がいいの?
裕子さんは中学生になって間もなく不登校になりました。
中学二年になると裕子さんは保健室に通うようになり、そこで終日過ごすようになりました。
裕子さんが三年生になったとき、もう一人の女子生徒が裕子さんと同じように保健室登校を始めました。
裕子さんは他の女子生徒と同室することを嫌がり再び不登校となりました。
夏休みが終わって二学期が始まるころに「心の相談室」というスペースが開設されました。
相談員として丸山さんが裕子さんの中学に派遣されてきました。
週二回予約を取って裕子さんは相談室に来るようになりました。
裕子さんと初めて会った日、丸山さんはノートを裕子さんに渡して「家にいる日は話したいことを書いて次のときに見せてね」と言いました。
裕子さんは、その「心のせりふ」というノートに今悩んでいることを書いてくるようになりました。
丸山さんは頃合いをみはからって、裕子さんに相手と自分を分けて時間を追って具体的に書いてゆく方法(Self Counseling)を教えました。
ある日、裕子さんは次のような「心のせりふ」を書き込んできました。
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学級委員のE子から電話がかかってきた。
E子は「卒業写真、絶対、一緒に撮ろうよね。みんな待ってるからね」と言った。
私は<そんなぁー、クラスの中に入っていく勇気なんかないよ。
きっと、E子は、先生に電話してあげてって言われたんだ。
E子がわざわざ電話してきてくれたんだから、断りにくいな。
それに、先生のことをガッカリさせても悪いしなー>と思った。
私は「ん」といった。
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丸山さんは、裕子さんが書いた<心のせりふ>を一つひとつ読み上げて
「このときは、どんな感じがしていたのかな?」
「誰にどうして欲しかったのかな?」
「自分は、どんなことを、願っていたのかな?」
と、裕子さんに問いかけてゆきました。
自分の感情や欲求を探るうちに裕子さんは、Eさんや担任の先生に悪く思われることをとても恐れていたのだ、ということに気づきました。
それから、裕子さんは不登校の引き金となった事件を丸山さんに打ち明けました。
一年のときにいじめに近い仲間外れがあって、それ以来、人が怖くなったというのです。
裕子さんは顔を伏せて小さな声で「人から無視されるって、とっても怖い。お前なんか消えろ、といわているようなきがする…」といいました。
それから突然、顔を上げると裕子さんは大きな声で「先生!卒業写真、どうしても撮らなきゃいけないの?」と丸山さんに問いかけました。
丸山さんが「自分ではどう感じているのかな?」と問い返すと
裕子さんは「嫌だ。撮りたくない。今の自分を残したくない。もう、みんな、私のことなんて、ほっといてくれればいいのに」と言いました。
思い出なんか、いらない
卒業アルバムに載せるための集合写真撮影日の前日、裕子さんの自宅に担任の先生から電話がかかってきたそうです。
以下は、裕子さんのノートからです。
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先生は「いい記念になると思うよ。先生も中学の時のアルバムをときどき見るんだけどさ。アルバムには大切な思い出がいっぱい詰まっていてね。懐かしくてさ。後で、やっぱり撮っておいてよかったって、きっと思うよ」と言った。
私は<私のためを思って、先生は声をかけてくれているんだ。先生の気持ちのこたえないと申し訳わけないかな>と思った。
私は「はい」と言った。
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撮影日の朝、裕子さんはまず相談室に入ってきました。
撮影時刻が迫ってくるにつれて、裕子さんの額に汗がにじんできました。
裕子さんは何度もハンカチで汗を拭い、息づかいもだんだん早くなってゆきました。
丸山さんが「ずいぶん緊張しているみたいだけど」と声をかけると、裕子さんは「汗ビッショリで気持ち悪い」と言いました。
いよいよ撮影時間となったとき、裕子さんは「先生一緒に来て」と小さな声で言いました。
丸山さんに付きそわれて裕子さんは出口まで行きました。
しかし、そこで石のように動かなくなってしまいました。
校庭では、クラスのみんなが写真を撮るために整列を始めています。
担任の先生が走ってきて「どうしたら、みんなのところまで行けるの?」と聞きました。
裕子さんは、わりと仲良くしている二人の名をあげて「両側から囲んでもらって、走って、みんなのところへ行きたい」と答えました。担任の先生は、再び走って生徒のところへ引き返して行きました。
しばらくして、丸山先生の目に映ったのは青春ドラマさながらにワーッと歓声をあげながら駆けてくるたくさんの生徒たちでした。
どういうわけか、迎えに来たのはクラス全員だったのです。
生徒たちはアッという間に裕子さんを取り囲んで、撮影場所に連れてゆきました。
担任の先生が丸山さんのところに走って来て嬉しそうな声で言いました。
「撮れましたよ。よかった、よかった」。
そこへ、保健室の先生もやってきて「窓から見ていたんだけど、やっぱり友達の支えが大切なのよね。本当に感動したわ。これで彼女もきっと立ち直れることでしょうね」と涙声でいいました。
次の日から、裕子さんはまた不登校になりました。
週二回開いている相談室にも来なくなりました。
丸山さんは、裕子さんの家に電話を入れてみました。
電話に出た裕子さんは「写真なんか、撮りたくなかったのに。本当に、思いでなんか、思いでなんか、いらなかったのに」と言って、泣き出しました。
つづく
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